2015/02/25

[感想文]直原冬明「十二月八日の幻影」


三行レビュー

太平洋戦争前夜、日本海軍防諜班の活躍を描いた異色のミステリ。考証を無視した荒唐無稽な要素は極力排除されながらも、この時代ならではのガジェットや仕掛けが駆使されており、エンターテインメントとしての読み応えも十分な作品である。



感想

ネタバレ要素には触れないように書く。

日本ミステリー文学新人賞の受賞作だが、諜報戦を謎解きという観点から描いたミステリとしては異色の作品である。派手なアクションや銃撃戦はなく、あくまで頭脳戦に重きが置かれている。個人的にもこういう小説が読みたかった。

タイトルの十二月八日は、言わずと知れた真珠湾攻撃の日である。
日米開戦をめぐるスパイの暗躍、というといわゆるゾルゲ事件が思い起こされるが、これは作中では「ヴァルケ事件」という直近の過去の出来事として語られ、本編の背景のひとつとなっている。
本編で起こる事件はゾルゲ事件の後に、どのような諜報戦が繰り広げられていたか?というIFの物語であり、登場人物は全て架空のものである。しかしながら時代考証は徹底されており、時代小説としての醍醐味も十分に味わえる。

また、非常に構成が巧みなことも本作の大きな魅力の一つになっている。
この人物は何者か? このシーンの意味は何か?小さな謎が幾重にも仕掛けられ、その小さな謎が解き明かされていくたびに、物語の全貌が少しずつ露になっていく。
読者が飽きずに読み進められるような工夫が徹底されており、エンタメ作品のお手本のように感じた。これが新人賞の受賞作なのだから、最近の新人賞は本当にレベルが高い。

あとは事前に何も知らずに読み進めたほうが楽しめると思うので、興味を惹かれたなら、ぜひこれ以上の情報を仕入れずに読まれるとよいと思う。



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